ビニャ・デ・マルティン
2020/06/11
D.O.リベイロのビニャ・デ・マルティンを訪問しました。ここで代々ワインを作っていたそうですが、1992年に今のワイナリーの形になりました。年間生産量が3万本ほどの、とても小さなワイナリーです。
一般的にリベイロは、無濾過のやや甘口の白ワインが多く、手作り感のある、暖かな感じのする飲みやすいものですが、フィロセキア大被害の後、新しく植えられた、病気に強く、ブドウの房も実も大きく、糖度も高いパロミノを使ったワインで、主に地元で消費されるものが多く、あまり国際的な評価は高いとはいえません。
それでも、この地域は紀元前2世紀にはワインを作っていたという、長い歴史を誇る地域でもあります。15世紀から17世紀にはヨーロッパ各地にはもちろん輸出し、アメリカにも運んだという記録が残っています。つまり、素晴らしい可能性をもった土着品種が数多くある地域でもあります。
ここ十数年のワイン技術の向上と、伝統的な素晴らしい希少価値の高い土着品種を再生する活動で、上質なリベイロが生産されるようになってくると、エレガントで個性的なリベイロがまた見直されるようになりました。ビニャ・マルティンは、中でも上質なリベイロという評価が高いワイナリーのひとつです。
プレス後、ステンレスタンクで発酵。 醸造家のルイス・アンショ・ロドリゲス・バスケスさんは、白ワインにありがちなフルーティでフローラルな甘みのある、飲みやすいフレッシュなワインは目指しておらず、2~3年、瓶内で熟成期間を経ることによってそれぞれの要素がまとまってきて、飲んだときに複雑な香りと味わいが奥深くから広がってくるような、辛口のリベイロを作っています。
白ワインは濾過をしますが、赤ワインは無濾過です。白ワインに関しては5年前までは、一度低温下にワインをおいて、酒石酸などを結晶化させて取り除く、品質安定化の工程をとっていましたが、現在はそれもやっていません。
特定の畑から採れるトレイシャドゥラを中心としたブドウを樽発酵、熟成のリベイロです。まだ市場には出ていません。現在このフードルに入っているのは、2011年に特定の畑で収穫されたブドウ。今年の秋、収穫が始まる前に樽からワインを抜き、濾過後、瓶詰めをする予定だそうです。それから、1年間の瓶内熟成を経て、市場に出荷されます。楽しみです。
フードルから抜き出して、少し試飲させてもらいました。10日ほど前に樽内の撹拌作業をした、フードルの真ん中についている蛇口から注いでもらったので、まだ酵母などが沈みきっておらず、かなり濁っていました。見た目は、出来たての自家製リベイロという感じなので、もっと甘みがあるのかなと想像したのですが、この時点でかなり辛口。
ルイスさんは、ラウル・ペレスさんなどと同じように、醸造中になるべく人の手を入れたくないタイプ。醸造中の試飲のときに、糖度やpHをはかることはあっても、あまりそれを重要視していません。樽内の撹拌作業の頻度について質問したら、「10日から1ヶ月に1回くらいかなぁ。」と答えてくれました。試飲することで、ワインの成長が想像でき、予後をはずさない、経験と記憶力を持っているのだと思います。
ちなみにルイスさん、D.O.モンテレイで評価が高いキンタ・ダ・ムラデジャのオーナーであり、醸造家のホセ・ルイス・マテオさんの友人でもあります。マテオさんが、オーガニック栽培からビオディナミ農法にまで傾倒していることについて質問してみましたが、「モンテレイは乾燥しているので実現可能なのだと思う。リベイロでは1年くらいブドウが採れなくても構わないと思えるほど潤沢な資金があればやってみる価値があるかもしれないけれど、今のところはブドウの健康と品質を一番に考えている。」ということでした。
赤ワインを熟成している樽です。「ラド」という、世界的にみてもこの村にしかない稀少品種だけから作る赤ワインも熟成中でした。
ルイスさんにとって、何よりも重要なのはブドウ畑。土壌、気候、品種などから細かく畑を区分けして管理しています。大変なのは、一つの畑にいろいろな品種を栽培しているので、それぞれ手入れ方法が違うこと。そして、特に春から夏にかけては芽欠きや、蔓をまとめることなど、一日でも送らせたくない作業が次から次にあるそうです。
山肌に畑があって、機械は全く入れられないというのも大変ですが、畑が村のあちこちに分散しているので、見回りだけでもさぞかし大変だろうと思いました。すると、ルイスさん、「だから、一般向けのワイナリー見学も対応できないし、ワイナリーのWebも出来てないんだよ。」と言っていました。醸造管理はもちろん、国内外営業や事務はルイスさんが一人で行い、通常期は3人が畑を管理しているそうです。
ビニャ・デ・マルティン・オス・パサス(ステンレスタンク1年熟成)という白ワインに使われているトレイシャドゥラ、アルバリーニョ、ラド、トロンテスと、ア・トロナ・ドス・パサス(8ヶ月樽熟成)という赤ワインに使われているブランセジャオ、カイニョ、フェロルも1株あたり2キロの収穫に抑えるよう、剪定や芽欠きをしてコントロールしています。
ビナ・デ・マルティン・エスコルマ(500リットルの大樽で発酵後、1年間同じ大樽でシュールリー。2年瓶内熟成)という白ワインに使われているトレイシャドゥラ、アルバリーニョ、ラド、トロンテスと、ア・トルナ・ドス・パサス・エスコルマ(3週間マセレーション、300リットルの樽で1年熟成、2年瓶内熟成)ブランセジャオ、カイニョ、フェロルは、このワイナリーの最も樹齢が古いブドウから1株あたり1キロの収穫に抑えるよう、コントロールしています。
ビナ・デ・マルティン・エスコルマは、畑の区分けごとに別々に発酵させますが、ア・トルナ・ドス・パサス・エスコルマは、全部まとめて発酵させます。トレイシャドゥラは、水分の割合が多いので、除梗してからプレス。とある畑のとある品種は、房丸ごとプレスなど、細かく丁寧に仕込む工程が、複数品種をブレンドして作るリベイロの魅力を引き出すのだと思います。
何よりブドウ畑を大切にしているルイスさん。「ビニャ・マルティン」というワイナリー名も、誰かの名前でもなく、代々大切にしている畑の名前です。ちゃんとしたブドウを育てればまず美味いワインができる、良いブドウから妙なワインを作るのは至難の業だから、と笑います。
どうりで、ワイナリーの中で、こちらが質問しても「あんまり、そういうことにこだわってないんだよ。」「その答えはブドウ畑にある。」と醸造に関しての説明は15分足らずで終わったのに、畑に出ると、ひとつひとつの畑について、品種について、手入れについて、固有品種の手入れの難しさと可能性、などなど4時間もかけて説明してくれました。
特に固有品種についての話はとても興味深いものでした。ビデオを持って行けば良かったです。
帰りに、リベイロ原産地呼称委員会が編集した大きな本をプレゼントしてくれました!