フィロキセラと自根ワインと、挿し木の方法
フィロキセラは、19世紀にフランスから始まり、欧州各地を襲った、すわヨーロッパブドウ樹全滅かと恐怖に陥れた昆虫の名前です。
現在、ワインとして楽しまれているブドウのほぼ全ては、ヨーロッパブドウ(ヴィティス・ヴィニフェラ)です。ワインに使われている数百種類以上あるブドウ品種も、実はひとつの種に属しているために、遺伝子の多様性に乏しく、病虫害の攻撃を一斉に受けやすいのです。
一方、アメリカでは多種多様な野生のブドウが自生しています。ところが「狐のような」と表現される強烈な臭みがあるためか、先住民によるワイン栽培の記録は見つかっていません。アメリカのブドウは、フィロキセラとともに進化してきたので、両者は共存してきました。賢い寄生虫は、宿主を全滅させません。
19世紀のはじめ、新奇な植物を輸入することが流行していたフランスにアメリカ産のブドウが持ち込まれ、それまでヨーロッパにはなかった、うどんこ病やべと病が発生します。それらの病気に対しては、硫黄粉末を散布することや、生石灰と硫酸銅を混ぜたボルドー液の開発などで対処できたのですが、1862年ボルティ氏の畑でブドウがしおれて枯れ始めたのが観察されたのを最初に、すぐにローヌ県の南部全てがフィロキセラの被害に合います。その後10年でフランス全土だけでなく、ヨーロッパ各地にその被害は広がっていきます。
二硫化炭素を根の周辺に注入することで対応していましたが、やがて、元々フィロキセラに抵抗力のあるアメリカ産のブドウを台木にして挿し木をすれば、ヨーロッパブドウもその特徴を失うことなく、被害も抑えられることがわかりました。
そして大々的に、アメリカ産のブドウを台木にして、生き残ったブドウから穂木を取り、挿し木をして、植え替える作業が行われるようになりました。現在でも、ごく一部の(フィロキセラが窒息してしまうので広がらないと考えられている)砂質の畑以外に新たにブドウを植えるときは、挿し木をしたものが植えられます。
「プレ・フィロキセラ」と「自根」が同じ意味だと混同されることがあるのですが、正確には、プレ・フィロキセラは「フィロキセラ被害が発生する前から生きている超高樹齢のブドウのこと」を指し、自根というのは、「アメリカ産の台木に挿し木をせずにそのまま植えられたブドウ」を指します。
穂木は、冬の剪定で切った枝を使います。手作業で行っているビデオと、専門工場で使用する機械による挿し木を説明しているビデオがありますので、スペイン語ですが、良ければご覧ください。
手作業による挿し木
以前挿し木されていたところより少し下で切り、そこに新たな穂木を差し込んでいます。
機械による挿し木
穂木にある芽の部分を短く切り、機械で台木に差し込んでいます。