カーボニック・マセレーションと全房発酵
今年のボジョレヌーボーはエレガントで、なかなか良かったようですね。
ひと昔前は、ただのお祭りで美味しいワインはない、なんて酷いことも言われたりしましたが、醸造技術はかなりの勢いで進歩しているので、以前飲んで今ひとつだった方も、もう一度試してみる価値はあるかもと思います。
さてボジョレヌーボーは、ブドウを除梗せずに、房ごとタンクに入れて、一部、カーボニック・マセレーションという醸造技術を使ってワインに仕上げています。ブドウの重さで潰れたところから酵母による発酵が始まり、発生した炭酸ガスがタンクに充満し、まだ潰れていないブドウの粒の中で細胞内発酵が起こります。正確には、この細胞内発酵がカーボニック・マセレーションです。
厳密にカーボニック・マセレーションというと、破砕しないままのブドウを密閉タンクに入れ、そこに二酸化炭素を注入して、嫌気発酵させるプロセスを指します。
この過程で生まれる桂皮酸エチルが、イチゴやラズベリーのような香りを生み、ベンズアルデヒドがサクランボの香りを生みます。
また二酸化炭素の中に全房を入れると、糖だけではなく、リンゴ酸も分解するので、ボジョレヌーボーは短い期間で飲みやすい味わいになります。
さて話は全房発酵の方に変わります。
1990年代から2000年代にかけてもてはやされた超濃厚ワインは、急速に過去のものになりつつあり、意識の高い若い生産者は、より繊細でフレッシュで複雑味の感じられるワインを作ろうとしています。
全房を入れると、ブドウの実と実の間に空気が通るので発酵温度が1℃~2℃下がり、抽出が抑えられ、アルコール度数も低めになります。結果として、よりフレッシュで生き生きとしたワインになります。そして、舌触りが良く、香りも高くなることが多いのは、カーボニック・マセレーション的な特徴に負うことがかなり大きいと言われています。
スペインのような暖かい地域では、そのテロワール故、どうしても力強いワインができてしまいがちですが、フレッシュさを追求するために、現在、一部、もしくは全てを全房で発酵させる方法に注目が集まっています。ブドウが急激に熟してしまい、茎が青いままだったりしたものを全房発酵すると、ワインは青臭い風味になってしまうので、醸造家の見極めに大きく左右される方法とも言えます。
DOCaリオハのアラベサ地区は、ボジョレヌーボーのように、伝統的に全房でカーボニック・マセレーションを利用して若飲みタイプの新酒を造ります。そろそろ、スペインも新酒の時期がやってきます。今年のワインはどんな風でしょうか。楽しみです。