ワイナリー訪問 D.O.リベラ・デル・ドゥエロ Goyo Garcia
Goyo García
2016/11/09
いつの時代にも流行と変化(進化、もしくは伝統回帰)はあり、ワインの世界も例外ではありません。90年代、アルコール度数が高く、凝縮した味わいで、バニラ香などしっかりと樽を感じるワインが流行し、リベラ・デル・ドゥエロは「スーパー・スパニッシュワイン」として、特にアメリカ合衆国を中心に持てはやされました。
また、1999年にEU圏の共通貨幣ユーロが導入されると、スペインは諸外国からの巨額投資の最大のターゲットとなりました。同時にスペイン政府はインフラ整備など公共投資に力を入れたため、国内経済は急上昇。いわゆるバブル経済です。当時多くのワイナリーで、遅めに収穫した糖度の高いブドウで、長い樽熟成で濃い味わいの、これまでにない高価な銘柄を作るようになりました。
そして、リーマン・ショックを受け、2008年以降、スペイン経済は失速してしまうのですが、スペイン、特にバスク地方のグルメ界は世界的に非常に高い評価を受け続けます。その料理に合わせるのに、アルコール度数が低い、より繊細なワインが見直されるようになりました。
その流れは、フルボディで有名だったリベラ・デル・ドゥエロにも影響し、樽熟成期間の短い(もしくはステンレスタンクだけ)のワインが多く作られるようになりました。樽熟成期間が短ければ、その分早く収入につなげることが出来、しかも、不景気で高いワインが売れないとなれば、低コストのワイン作りにシフトせざるを得ないワイナリーが多かったわけです。フレッシュで果実味豊かな軽めの味わいが流行となれば、言わずもがな。
ここ数年、低めのアルコール度数で高い酸をもつ、リベラ・デル・ドゥエロのワインもよく見かけるようになりました。ただ残念ながら、まだその大部分に違和感があります。高い酸を保つため故の早い収穫、極端に低い温度での醸し、、、。大学で醸造学を学び、経験を積んだ醸造家なら、同じブドウからミディアムボディのワインでも、フルボディのワインでも、実はある程度簡単に作ることができます。例えば、同じジャガイモとタマネギ、牛肉から、いくつかのレシピを知っている人なら和食でも洋食でも作ることができるのと同じ。
しかし、それが、料理の知識や経験のない人がレシピサイトで調べて初めて作ったものと、手慣れたプロが作ったものと、たとえ材料と工程が同じだとしても、まったく完成度が違うのは想像に難くないです。乱暴な切り口ですが、「新潮流のリベラ・デル・ドゥエロ」の多くに違和感があったのは、そういう理由もあるのかもしれません。
前置きが非常に長くなってしまいましたが、ゴヨ・ガルシアのワインは、いわゆるブルゴーニュタイプのエレガントなワインです。フルボディのリベラとも違うスタイルですが、無理をした感じとか、浮いた感じが全くありません。しっとりと落ち着いている感じは、気品あるテンプラニーリョの良さそのもの。全体を輪郭づける冷涼感は、標高900メートルという高地の斜面で採れる風通しの良さから。軽やかな味わいを作っている酸は、この地方では伝統的に混植されていた白ブドウのアルビージョを混ぜることによって。
ゴヨ・ガルシアは、このスタイルこそが1970年代から1980年代前半のリベラ・デル・ドゥエロで作られていたスタイルなのだと語ります。何故なら彼は、1984年創業のバルドゥエロという老舗ワイナリーの息子。マドリッドで、農学修士課程を卒業し、1984年のワイナリー創立から1992年までバルドゥエロで働きましたが、その後、方針が合わず、ラ・マンチャの別のワイナリーに移ります。2008年に、自らのワイナリーを作るために帰郷。標高が850メートルから1000メートルという斜面にある、株仕立ての古い樹齢の畑を奥さんと二人で手入れしています。完全オーガニック栽培です。
作るのは、亜硫酸塩無添加の自然派ワインのみ。
自然派ワインにありがちな還元臭も、不安定さもなく、とてもクリアでしっかりとしたストラクチャーが素晴らしいです。亜硫酸塩無添加だから美味しいのではなく、亜硫酸塩無添加でこの品質を保てるのは、醸造の深い知識とワインに対する愛情と情熱があってこそ。高い技術を感じさせてくれる上質なワインです。
非常に古い樽を使って、17世紀の地下セラーで熟成させています。
ゴヨ・ガルシア氏は、リベラ・デル・ドゥエロの他にも、カンタブリア地方のピコス・デ・エウロパ山脈にある100年樹のパロミノを樽熟成させた白ワインと、メンシア種とパロミノ種をブレンドした赤ワインとを作ります。もうひとつ、ブルゴス県北部のレルマという町でテンプラニーリョとアルビージョをブレンドして作るフレッシュな赤ワインも秀逸。
リベラ・デル・ドゥエロの赤ワインは、単一畑で銘柄が分かれていて、土壌によるキャラクターの違いが楽しめます。
日本未入荷。お気軽にBUDO YAまでお問い合わせください。