ミゲル・デ・セルバンテス大学 ワイン夏期講座1日め
2014/07/08
毎年、ワイン関係の仕事に従事している人向けに、ミゲル・デ・セルバンテス大学でワインの講座が開かれます。本日は、その一日めでした。
今年の目玉ともいえる、ベガ・シシリア社の講義。初日は、オーナーのパブロ・アルバレス氏が、ベガ・シシリア社の歴史について語ってくれました。
1864年に、ボルドーでワイン作りを学んだドン・エロイ・レカンダ氏がカベルネ・ソービニヨン、メルローなどの苗木を持ち込み、地元品種のテンプラニーリョとブレンドしたところから始まります。ウニコとバルブエナが誕生したのは、1915年です。そして1929年のバルセロナ万博で、ビンテージ1917年と1918年が国際的に認められることになります。
現オーナーのアルバレス家が、ベガ・シシリア社を購入したのが1982年。その後、1991年にアリオン社を、1993年にトカイ・オレムス社を創立。2001年にピンティア社創業。そして、2013年にベンジャミン・ロートシルトとの共同プロジェクトとして、リオハらしさを追求した「Macán」をリリースします。
長引く経済危機の中、中小ワイナリーが販売に苦労していますが、王者として君臨するベガ・シシリア社は、世界各国にすべて予約販売制で、売れ残ることはまず考えられないそうです。営業部はありますが、マーケティングに特化する部署はありません。
取引先として、最も重要なのが、スイス、メキシコ、アメリカ、そしてシンガポールや香港だそうです。
スペイングルメアカデミー(Academia Española de Gastronomía)のイサベル・ミハレス氏による、「ワインの誘い方」。昨年のワイン生産量世界一のスペインなのにも関わらず、一人当たりの消費量は世界第15位で、フランスの48リットルに対して約半分の24リットル。特に若者のワイン離れが激しく、全体の消費量も落ち込んでいます。
ワインの何が若者を敬遠させるのか、を探るために、いくつかの大都市で18才から35才までの様々な背景を持つ若者を集めて、ワイン飲み放題のパーティを開催したそうです。その中で聞けた話では、「ワインはいろいろあってよくわからないので選ぶのが面倒。」「美味しくない安いワインを飲むより、いつも同じ味のビールの方が安心できる。」「ワインにつきものの、ローマ人の歴史などが学校のお勉強を思い出させる。」「グラスの持ち方とか、飲み方とかを間違えると恥ずかしい。」
ソムリエが語る、「この年の気候は○○で、土壌は○○で・・・」という丁寧な説明が、若者からワインを遠ざけているのではないかという話でした。お客さんによっては、歴史や、醸造家の名前など、ワインの背景を知ることで、より美味しく楽しく飲める人も多いはずなので、それは客層を見極めれば良いことだとは思うのですが、スペイン国内の場合、ワインは1本数百円で買え、ビールを飲むより安いくらいなので、確かにもっと若者が日常的に気楽に楽しむ文化があっても良いなと感じます。
もうひとつ、トップクラスのレストランのシェフがビールを飲んでいるので、何故ワインを飲まないのか?と質問したら、「この料理に合う品種で、最適なグラスを準備して、適温に調整して、味が開くまで待って・・・ということを思うと、ビールが気楽で良い。」という答えが返ってきたのだそうです。この辺を、面倒だから飲まないとするのか、だからワインって面白いとするのか、ここが大切だと思いました。
D.O.ルエダで、興味深い白ワインを作っているワイナリーの座談会。左から、低アルコールのセミ・スウィートワインを作ったり、低価格な目新しい商品を開発して、幅広い客層をつかむことに成功している、Grupo Ylleraのマルコス・イジェラ氏。真ん中が、他とは一線を画すエレガントな味わいで人気のBodegas José Parienteのマルティナ・プリエト・パリエンテ氏。左が、オーガニック栽培に力を入れているBodega Ménadeのリチャード・サンス氏。
白ワインは、最近の食生活の変化や、総じて赤ワインより低価格なことなどから、販売量は増えているそうです。
問題は、同じ品種、気候、土壌、醸造施設、人工酵母の使用で、価格も味わいもどこも似通ってしまっていること。原産地呼称委員会が品種や醸造方法などを細かく規定しているため、ルエダとしてのキャラクターは守られるが、個性的なワインは作りにくくなっていると話していました。実際、D.O.ルエダの認定をとらない、個性的で高品質なワインも出てきているので、その辺が突破口になるかもしれません。
バリャドリッドの人気レストランのオーナーやシェフ、ソムリエが、レストランで飲むワイン価格は適当か?というテーマで話しました。聴衆も交えての喧々諤々。「スーパーで3ユーロのワインが、どうしてレストランでは10ユーロになるのか? 6ユーロで出せば、もう1本注文してもらえ、ワイン消費も上がるし、そのレストランにはお客がまた戻ってくるはず。」という聴衆からの意見と、「保管にも、サービスにも経費がかかる。」と反論するレストラン。
「開栓後も保存がきく1本8ユーロのウィスキーを、グラス1杯3ユーロで出しても誰も文句を言わないのに、抜栓したら数日で売り切らなくてはダメになる1本15ユーロのワインを、グラス1杯3ユーロで出したら、高すぎるって文句を言われるのは何故だ?」という反論が一番、聴衆を納得させていました。
グラス1杯60センティモ程度でワインを飲めるスペインでは、グラス1杯3ユーロのワインはとても高級です。それでも美味しければ、グラスでいろいろ飲めればいいなとわたしなどは思うのですが、売れない商品は置かないので、3ユーロのグラスワインをいろいろ飲めるBARはごくごく限られています。
それでも週末に一人10ユーロで3種類ほどのワインで試飲会をしている、バリャドリッドのとあるビノテカは、毎回100人くらいの老若男女が集まり、満席です。テーマの選び方が面白いし、おつまみもつくので割安感があるのと、仲間で映画を見に行くような、そんな遊び感覚で集まっています。高いから売れない、安くすれば売れる、ということだけではない、と思います。
講義の後は、3種類のワインとそれに合わせたタパス。半生のイワシの燻製。塩辛さも、ゴデジョの酸味が和らげ、素晴らしい相性でした。
若飲みの白ワインは、ビンテージが新しいほど喜ばれがちですが、1年、2年して良くなるものも当然あります。色合いや味わいの変化についての説明がありました。
シガレスの原産地呼称委員会が宣伝用に作っているロゼワイン。イチゴや、お菓子のような甘い香りが派手すぎのような気もしましたが、トルディージャを食べると気にならなくなりました。卵とジャガイモにたっぷり含まれた油が、個性を中和する感じでした。チーズを食べながらだと、大抵のワインが似たような味わいになってしまうのと似ているかもしれません。
こちらは、トロの原産地呼称委員会用のワイン。樽香が強めで、しっかりしたフルボディでした。ダークチョコレートを合わせてくれましたが、チョコレートのひとかけらが大きい上に固くて、食べるのに時間がかかり、相性うんぬんを楽しむ感じではありませんでした。口の中にチョコレートとワインが同時にあっても、嫌な感じはしなかったので、相性は良いのだと思います。