Juan Carlos Sancha-超稀少品種でワインを作り、古樹のガルナチャの可能性を探るワイナリー
リオハ大学で教鞭をとる、フアン・カルロス・サンチャ氏の試飲会に行ってきました。 ワイナリー設立は2008年。リオハの中で、最も寒冷な地域に、1917年に植樹された畑を所有しています。醸造設備の建物面積は280平米、総生産量24700本という、ごく小さな規模です。フアンが目指しているのは、絶滅危惧種を再生させ、そのキャラクターを生かしたワインを作ることと、寒冷地で育つガルナチャのポテンシャルを表現するワインを作ること。
リオハでは、1912年には44種類のブドウが栽培されていました。ところが、1942年には11種類になり、2000年にはとうとう7種類だけになってしまいました。確認されているだけでも、10種類以上のブドウ品種(Royales、Morisca、Yjaurd、Granadina,Mollar、Morate、San Jerómimo、Anayés、Cirujalなど)が絶滅してしました。
ガルナチャもスペイン固有品種ですが、より生産性と収益性の高いテンプラニーリョに植え替えられ、栽培面積は減る一方。古樹のガルナチャには素晴らしいポテンシャルがあり、失われた時間は取り戻せないのに残念です。
何故、ブドウ栽培農家が古いガルナチャを抜き、新たにテンプラニーリョに植え替えるのかというと、ガルナチャは面積あたりの収穫高が低く、古い畑は機械が入れにくいので、より手間がかかるからです。ガルナチャには、1.高い酸を含み、アルコール度数が上がってもワインの酸性を保つ。 2.リンゴ酸は少ないため、スムーズな飲み口になる。 という魅力がありますが、それを実現するには知識と技術が必要で、樽熟成にはさらに繊細な技術と経験が求められます。
つまり、収穫高の高いテンプラニーリョで大量生産してワインを売った方が簡単だったのです。最近になって、原産地呼称委員会など公的機関による、金銭的な保証を含めた古樹の畑を守る取り組みが、スペイン各地で始まってきています。また高い醸造技術を持つワイナリーが増えてきて、ガルナチャは世界的に注目される品種になってきました。
フアン・カルロス・サンチャ氏の赤ワインの醸造方法は独特で、ブドウの実を丸ごと、500リットルのフレンチオーク樽に入れ、発酵期間中、一日16回ほど回転させます。氏によると、伝統的な醸造方法を再現したやり方なのだそうです。次に、重力を利用し、上段の樽から下段の樽にワインを移し、同じ500リットルの樽で11ヶ月から13ヶ月間、シュール・リーします。
今回試飲したのは、リオハで最も寒冷地にある樹齢90年を超えるガルナチャ。興味深いことに、ブドウ農家別に最後までワインを作り、ブレンドしていません。ワイン名はどれも同じ「ペニャ・エル・ガト」ですが、ボトルに生産者の名前が書かれたタグがつきます。全部で6種類あります。(総生産量:1200本)
今回試飲した3種類は、同じ地域の、同じ気候の、同じ品種なのですが、3本とも全く違うキャラクターを持っていました。全て樹齢90年を超えるガルナチャ。唯一はっきりと違うのは、畑の方向が東向きであるか、南向きであるかなど、太陽に向かう方角。日照量と気温で、ここまで味わいも変わるものだなと興味深く味わいました。
最初に飲んだルベン・オラルテ氏の畑はいくつかあり、日照条件もいくつかに異なります。味わいは、初めに甘さが来て、アルコールの高さ故か、ぐーっと縛り付けられるような強さがあり、ふっとそれが緩められるとすっとリラックス感が長く続きます。余韻が素晴らしく、とても不思議な感覚でした。
2番目が、Juan Carlos Sanchaの自社畑のガルナチャ。最初のワインに比べても、ずいぶんとタンニンがしっかりしています。透明でキラキラして美しいけれども、気をつけないと手を切りそうなガラスのような、非常にピュアな味わいでした。だんだんとイチゴなども花開いてきます。
3番目が、フェルナンド・M・アロンソの畑。北東向き。3本の中では一番要素がまとまっていてバランスが良く、尖ったところがないので飲みやすいワインでした。ミルキィさがいくらか強いからか、甘い訳ではないのですが、いちごみるくキャンディーを思い出しました。
そしてテンプラニーリョ・ブランコ。1988年にリオハ(Murillo de Río Leza)の古い畑で、黒ブドウのテンプラニーリョの1本の枝に、白ブドウが生っている突然変異が見つかり、それを接ぎ木で増やしました。今では、まだ一般的ではないものの、単一種でもワインが作れるようになりました。Juan Carlos Sanchaでは、1997年からテンプラニーリョ・ブランコを自社畑で栽培しています。リオハ原産地呼称委員会が、ブドウ品種として認めたのが2007年です。
テンプラニーリョ・ブランコは、1ヘクタールあたり6千キロほどの収穫量が期待できます。黒ブドウと同じく、成育サイクルは短め。房は小さく、軽めです。かなり高い酸を持ちます。
このワイナリーでは、ステンレスタンクだけで醸造しています。(2013年ビンテージは5867本)
色合いは、わずかに黄色がかっていますが、ほぼ透明。 香りは、青リンゴや柑橘系。フローラルな感じもあります。味わいは、ドイツのリースリングにかなり近く、レモンをかじったときのようにフレッシュです。爽やかな余韻がとても長いです。
非常に酸が強い(Total acidity:7.5g/l TH2, pH:2.91)ため、樽熟成にも向くでしょうが、現在は品種の特徴を最大限に生かしたワインを作りたいので、ステンレスタンクだけで醸造しています。
これは、マトゥラナ・ティンタ。 テンプラニーリョ・ブランコ同様にリオハだけの固有品種で、Navarreteというところで、17株だけ発見されたものです。原産地呼称委員会には2009年に認定されました。Juan Carlos Sanchaでは、1997年から自社畑で栽培しています。成育サイクルは、テンプラニーリョよりやや長く、病害に強い品種ですが、唯一の弱点として開花をしない場合があるそうです。
紫色。チョコレートと、この品種の特徴であるピーマンの香りがします。タンニンの収斂性はなく、ふんわりと軽やか。甘さは少なく、酸が効いていて、後口にほんのり苦みが残ります。(2012年ビンテージは17500本)
これは、モナステル・デ・リオハ。同じように、リオハの固有品種ですが、2007年に受理されたものの、まだ品種としての認定手続きの最中です。Juan Carlos Sanchaでは、1999年から自社畑で栽培しています。収穫高が非常に変わりやすい品種で、営業的にはなかなか厳しいそうです。(2012年ビンテージは600本)
赤紫色。ミントやハーブ、松などの爽やかな香りです。飲み口はスムーズで、どちらかというとクリーミィでエレガント。わずかに苦みもありますが、タンニンの収斂性は全くありません。このワインも酸がかなり高めです。(Total acidity:5.05g/l TH2, pH:3.45)
現在、ワインの在庫はほとんど残っていないそうですが、BUDO YAでも本数限定で日本向けに発売します。お楽しみに!